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おとなの発達障がい ADHD(注意欠陥/ 多動性障害)

目次

  • 診察に訪れる患者さんのお話
  • 自覚症状は?
  • 増えている理由は?
  • ADHDの症状は?
  • ADHDの原因は?
  • 自閉症スペクトラムとの違い
  • ADHDの対処の仕方

診察に訪れる患者さんのお話

「こどもの頃も知的遅れなどなく、成績は真ん中くらい。提出物を出すのが苦手な部分はあったけど、それは不注意というより、好きなことを優先するためにそのことを忘れてしまうからでした。学校行事にも普通に参加していたし、特に変わったところはなかったと思います。

でも、大学での勉強やアルバイトでのいろいろなことでケアレスミスが多くなり、時には怒られたりするようになりました。  例えば、大学で勉強している研究のデータをパソコンでレポートにまとめて発表することになったんです。腰を据えて取り組もうと決意したのですが、いつまでたっても取りかかることができません。忘れてしまったわけでも、『なるようになれ』と考えているわけでもありません」。発表の2週間前には、仕上

げたものを先輩にチェックしていただこうと計画していたのですが、実際にはできませんでした。バイトでも、キャンペーンなどが始まってお客さんへの対応の仕方が変わったりすると、上手に接客できなくなって…。とにかく、いつものことと違う変化があると上手くできないんです」。  私のところを訪ねてられる、ADHD(注意欠陥/多動性障害)の患者さんの平均的な悩みです。この話の中には、大人の発達障がいの方に見られる特徴が散りばめられています。今日は、大人の発達障がいの中でも、最も多いと言われているADHDを中心にお話しをしたいと思います。


自覚症状は?

眠れない…などのストレス反応が気づきに。

ボンヤリとすることが多い。夜、ちゃんと眠れない。疲れが取れない…。発達障がいと診断をされる多くの方が、病院に見えられたときに、このような症状を訴えます。いずれも自律神経系の乱れによる症状です。仕事や生活において計画通りに物事が進まなければ、当然ストレス反応が起こり、これらの症状となってあらわれます。そして、この苦手なことへのつまずきが集中力を低下させ、発揮できるはずの能力を、さらにダウンさせてしまいます。

次にあらわれるのが、気分障害です。気分が沈んだりハイになったりすることで、日常生活に支障をきたします。
この自律神経系の乱れや気分障害などは、うつ病など他の精神疾患にも見られるものです。しかし、うつ病における意欲の低下や食欲の不振、睡眠障がいなどの症状は、脳の中での感情ホルモンの崩れが原因で、ADHDとは異なります。しかし、ADHDの人が二次的にうつ病になることもありますので、しっかりと調べておく必要があります。

増えている理由は?

生活の多様化などにより、
子どものときに気づかないケースが…。
発達障がいは先天的なものであり、成人になって発症することはありません。子どものときから持っていた障がいに気がつかず、大人になってから疑いを持ち診察を受けるケースが増えてきているのようです。  子どもの時に気づかない理由は、いくつか考えられます。ひとつは生活の多様化です。私が小さいときは、クラスの男子のほとんどがビックリマンシールを集め、ミニ四駆の改良に夢中になり、筋肉マン消しゴムでとんとん相撲をして遊んでいました。みんなが同じ話題でコミュニケーションを取り合う状況にあれば、発達障がいは、比較的気づきやすいものです。しかし現代は、趣味や興味の対象が幅広く、子供のころから自分なりのライフスタイルを持つことが少なくありません。当然、人との交わりが少なくりますから、発達障がいが見つけにくくなっているのでしょう。

発達障がいを、個性と捉えてしまうことも、原因のひとつかもしれません。少しトンチンカンなことを言うかわいい子を『天然キャラ』と言ったりしますが、発達障がいの疑いとなる部分を個性として捉えことが、発見の遅れとなっている場合もあると思います。  また、子どもの頃は、親や先生がやることを指示してくるので、障がいがあってもなんとかなってしまうものです。しかし社会に出たり家庭を持つと、仕事や家事などやるべきことが大幅に増えていきます。そして、そのほとんどは自分で判断し責任も持たなければなりません。このような状況になった時に上手くいかないことが増えていって、発達障がいの疑いを持つようになるようです。

ADHDの症状は?

不注意、衝動性、多動性。
大人の発達障がいの中でも、もっともよく耳にするのがADHDではないでしょうか? ADHDには、次の3つの特徴的な症状があります。

 

 

 

 

 

 

 

●不注意
・忘れ物や紛失物が多い
・長時間集中するのが苦手 ・約束などを忘れたり、時間に遅れたり、締め切りなどに間に合わない
・複数の課題や作業を並行して進めることが苦手 ・仕事などのケアレスミスが多い
・片づけや整理整頓が苦手

●衝動性
・思ったことをすぐ行動したくなる
・相手の話を最後まで聞くことが苦手
・順番を待つのが苦手
・気に障ることがあると乱暴になることがある

●多動性 ・落ち着きがない
・じっとしていられない

ADHDの原因は?

脳の情報伝達のかたよりです。
詳しい原因はまだ分かっていませんが、自分の注意や行動をコントロールしている脳の神経系の機能に問題があると考えられています。  脳の前の部分にある前頭前野は「脳の司令塔」と呼ばれ、物事を整理整頓して記憶をまとめたり注意を持続させたりして、行動などをコントロールしています。ADHDの人はここの働きにかたよりがあったり低下しているため、自分の経験を有効に使って長期的な計画を立てたり、行動や感情のコントロールができないのではないかと考えられているのです。  またADHDの人は、ドーパミンやノルアドレナリン(脳内の神経細胞の間で情報をやりとりするための伝達物質)の働きが不足していることがわかっていて、神経伝達物質の機能が十分に発揮されないために、不注意や多動性があらわれるのではないかと考えられています。   ADHDの診断は、アメリカ精神医学会のDSM─5や世界保健機関(WHO)のICD─10による診断基準(P6参照)によって下されます。正式に診断を受けたい場合には専門機関でも診断や検査を受けることをおすすめします。

自閉症スペクトラムとの違い

できないことが違います。
大人の発達障がいで、ADHDと同じようによく耳にする病気に、自閉症スペクトラム(ASD・アスペルガー症候群)があります。特徴は次の通りです。 ・相手の気持ちや場の状況を察することが苦手(空気が読めない人) ・予定外のことに対応することが困難 ・同時に2つ以上のことをするのが苦手 ・好きなことには熱中するが、それ以外のことは目に入らない など ADHDと共通する特徴も数あり、専門医でないと見誤るかもしれません。  しかし両者には原因の違いがあります。ADHDの方は、「相手の気持ちや状況を察することはできる」のですが、「どうすべきか分かっていても実行できない」のです。一方、自閉症スペクトラムの方は、「相手の気持ちや状況を察することができない」という困難と向き合っているのです。

ADHDの対処の仕方

ADHDの方にもいろいろなタイプがあり、苦手なことが異なります。それらの対処法の一部をご紹介します。 ●時間の管理が苦手なタイプ  時間の感覚が弱いため、やるべきことがこなせない。いつも時間に追われている。

【対策】手帳などを使ってスケジュールを作りましょう。
・起きる時間、食事の時間、寝る時間など、1日の基本的なタイムテーブルを決めて書き込みます。
・掃除や買い物などの毎日のこと、ストレッチなど毎日やると決めた項目を書き込んでいきましょう。
・約束や用事ができたら、スケジュールにすぐに書き込みましょう。「今日やること」や「今週やること」などのリストを作るのもお勧めです。
・スケジュールを必ず確認することが大切。常にスケジュール帳を見る癖をつけてください。

毎日積み重ねていけば、「遅れない」自分が発見できて自信が持てるようになると思います。
●必要な物をいつも無くしてしまうタイプ
大事なものを持っていても、注意があちこちに向いてしまい、その大事なものをどこに置いたか分からなくなる。
【対策】ものの置き場所を決めましょう。
・例えばカギはドアの近く、財布は決まった引き出しの中など置き場を決めて、常にそこに置くように習慣づけます。
鍵やケータイなどには、大きなストラップをつけるのも良いかもしれません。
他にもいろいろなタイプがあり、日常生活で困っている方は少なくありません。いずれの場合も、生活リズムを作ったりスケジュールを決めたりなど、日常における枠作りがとても大切です。そして、それが持続してできているかをチェックし、励ましてくれる人の存在とても有効です。

ADHDの治療は大人になってからでも決して遅くありません。自分のためだけでなく家族のためにも、専門家に相談することをお勧めいたします。

取材にお答えくださった五條 智久先生

静岡こころの医療センター
精神科
〒420-0949 静岡県静岡市葵区与一4丁目1−1
電話:054-271-1135