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こどものうつ

今月の先生:大石 聡 先生先生

静岡県立こども病院
こころの診療科 医長

はじめに…

「うつ」というと、みなさんはどんな状態を思い浮かべますか?こころの風邪、などと呼ばれることのあるうつ。ごく簡単にいってしまえば気持ちがふさぎ込み、なにをするのもおっくうになるのがうつです。体がおもく感じて、いつもなら簡単にできていた仕事が手につかない。なんとかしなくちゃ、と思う気持ちが空回りして、具体的なことは何も思い浮かばない。なんだか無性に悲しくなってきて、涙がうかんできたりもする。そういうものがうつの症状です。
以前はうつ病は「中年の病」とよばれていて、40~50代くらいの年代に病気がおこりやすいと考えられていました。また、特に理由やきっかけがなく、ストレスや環境とは無縁に起きてくるように思われるものを「内因性うつ病」と呼び、その逆にストレスや環境の要因との関連がはっきりしているように思われるものを「反応性うつ病」と呼んで区別していました。しかし、1970年代ごろから診断基準が変わり、原因に関わらず同じような病態のものをすべてうつとして扱って研究が行われるようになると、どの年代にも万遍なくうつの病態が生じていることが明らかになってきました。そして、成人よりは少ないものの、子どもにもやはりうつというものが間違いなくある、ということもわかってきたのです。今日はそうした子どものうつについて、お話ししようと思います。

子どものうつの特徴

 最近のある研究によれば、うつ病の症状がみられる子どもは、5歳以上の児童期で0.5%~2.5%くらいいるとされています。12歳以上の青年期にはいると2.0%~8%と数値が高くなり、16歳を過ぎるとほぼ大人と同じ割合に達します。小学生以下の子どもにも、大人ほどではないけれども、やはりうつの症状がみられることがわかります。大人のうつ病は女性に多いのですが、12歳以下の子どものうつでは性別によって違いがないことも特徴の一つです。

 また、子どものうつ病では大人とは現れが違ってくることも知られています。まず、うつ病のもっともわかりやすい症状である「気分の落ち込み」が、子どもではあまりはっきりしません。「悲しい気持ち」や「暗い気持ち」などもあまり自覚しない子が多いようです。むしろ、いらいらして怒りっぽくなる、機嫌が悪い、落着きがない、といったあらわれが多く目につきます。また子どもでは、頭痛や腹痛といった身体的な不調の訴えが大人より多く見られます。



 その一方で、大人のうつ病と同じような現れもあります。それまで楽しめていた様々な活動が楽しめなくなり、遊びにも気乗りしなくなります。つまらなそうな表情が増え、喜怒哀楽が見えにくくなります。全体に活気がなく、ぼんやりしていることが増え、切り替えが悪くなって用事をさっさと済ませられなくなってしまいます。食欲が落ちて、体重も増えなくなることが多いですが、イライラから過食になってしまう子もあります。夜の寝つきが悪くなり、眠りも浅くなって夜中に何度も起きたり、朝早く目覚めてしまうことが出てきます。その一方で、布団から出てこられなくなり、ずっとうとうとしているような「過眠」を呈することもあります。こうした症状には一日の中で「日内変動」と呼ばれる変化があることが多く、朝目を覚ました時から午前中にかけてもっとも強くなり、午後になるとしだいに軽くなって夕方から宵にかけて一番楽になる、というのがふつうです。

子どものうつへの理解と対応

 子どものうつ病は周囲の理解を得られず、適切に扱われないことが多いので心配です。風邪を引いた時にはすぐに薬を飲ませてもらい、学校も休んでゆっくり寝て、みんなに優しくしてもらえます。

 でも、うつの子どもに同じことが必要だと思っている大人は殆どいません。うつ病を理解せず、それまで同様の日常生活を強いる(学校や習い事に無理に行かせるなど)と、病気は悪化して長期化してしまいます。情緒が不安定になり、ストレスが極度に募ると、かんしゃくを爆発させたり、「僕なんか消えてしまえばいい」と自分を傷つける行動に至ってしまいます。親子関係が悪化すると、自宅で休息をとることも難しくなるでしょう。



 うつ病の治療には、風邪ひきのときと同じように「まずしっかり休息をとること」が何よりも大切です。また症状が重く心配な時には、やはりきちんと医師の診察をうけることが必要です。
受診することで
①本人が病気をきちんと理解する。
②保護者や先生、周囲の友達などにもちゃんと病気を理解してもらう。
③うつ病に特有の気持ちや考えを知り、それをみんなで協力して修正していく。
④必要な時にはしっかり薬も使用する。
ということができるようになり、治療がやりやすくなります。



 うつの症状は数か月単位で持続しますし、その間症状も動揺することが多いので、気長に療養することが大事です。きちんと対応すれば、長期化する例や、慢性化して年余にわたって遷延する例は、それほど多くないことがわかっています。また、子どもがうつになることは、その保護者にとっても非常にショックな出来事です。自分の養育を責めたり、周囲から責められることで親がうつになってしまうこともあるのです。保護者の気持ちへも充分な配慮が必要です。

これからの子どものうつへの取り組み

いずれにしても、子どもにもうつ病があることがもっと広く社会に認知されることが望まれます。とくに学校などの教育機関では、登校できなくなった子どもにうつ病やうつ状態がないか、きちんと検討する"眼"を持ってもらうことが肝心です。日頃からアンケートなどで子どもたちのメンタルヘルスを調査し、子どもと一緒にうつに関する正しい知識を学んでいくことが予防策となるでしょう。